修平氏、北へ。

もはや己の行く先も分からず、無気力野郎になりかけていた修平氏が碇を上げ、帆を立て、北に進路をとったようである。



さかのぼること半年以上前。修平氏は船で大海原へと旅立った。


当初、順調に進むかと思われた旅は思いの外困難をきわめた。


船底に穴が空き浸水し、帆布は破れ、挙げ句の果てに地図が失くなり、事態はますます深刻化した。


宛てもなく大海原を漂っていると、偶然にも島を発見したので、そこに船を泊め、船の修理を試みたが、すでに手の施しようがない程に船はオンボロであった。


水平線に沈む夕日を眺めたり、漂流したガラクタを集めたり、ウヰスキーの瓶に手紙を入れて誰かからの返事を期待したりしたが、待てど暮らせど返事はなかった。そして、途方に暮れた。


平氏は砂浜をうろうろした。すると、波打際に小さな瓶を見つけた。


拾い上げてみると、中には手紙が入っていた。手紙には、こう書かれていた。


「私は元気です。ただ、船が壊れてしまって、にっちもさっちもいかないというのが現状です。救助待つ。修平氏


自ら書いた手紙は波に押されて、再び氏のもとに戻ってきてしまうのであった。それから何度も手紙を瓶に入れて流してみても結果は同じであった。そして、また途方に暮れた。


いつまでも途方に暮れていても仕方ないので、修平氏は島で偶然見つけた『金色のモツ鍋屋』でモツ鍋を運ぶことにした。


『金色のモツ鍋屋』の人々は修平氏を温かく迎え入れてくれた。


美味しい賄い料理を作ってくれる小さいオジサンや、やたらと「ガムいります?」と言ってくれる男の子がいた。


平氏は、小さいオジサンが唄うピチカートファイブの『東京の夜は7時』のリズムに合わせて踊った。


そういう楽しい人々に囲まれていると、修平氏は自分の置かれた状況の一切を一瞬の間だけでも忘れることが出来た。スタッフは皆良い人ばかりであった。これは本当のことである。


しかし、何かが足りない。


一番大事な何か。
根底にある何か。
大切なモノの欠落。
明らかな遠回り。


この、何か満たされぬ日々の中に身を置くことが自分の選んだことであったろうか?


このまま浦島太郎のように呑気に過ごしていて良いものか!?と、修平氏は疑心暗鬼に陥った。


「今の私はこうです!」と胸を張り、声高らかに言い切ることが出来ないもどかしさ。


「修平君は今何してるの?」という質問に対する返答を、ありとあらゆる無駄話を投じて濁すこともしばしばであった。



ある日、修平氏は勤務終了後に、気分転換も兼ねて街に出てみることにした。


ずっと鍋を運んでいると疲れるからである。


街の匂いは懐かしく、かつての自分の姿を思い出させた。


そんな修平氏のもとに、恩師から、北の街にスタッフを探しているお店があるのだという知らせが入った。


そして、修平氏は開眼する。


「自分のような者を求めてくれる人や場所で自分がやれることを存分に発揮すべきではないか!そして、己の力を伸ばすことが私の目的。…そうだ!ようやく思い出した。私はそういう奴だった!!」


平氏は後日、北の街に向かい、紹介されたお店へと足を運び、色々と話をさせて頂いた。


そして、「頑張らせて頂きます。よろしくお願いします」と言った。


平氏は『金色のモツ鍋屋』を離れる決意をした。


「この地が私の新天地!新天地というか北新地。この地で新たな挑戦だ!」


平氏は船の修理を完了し、新たな決意を胸に船出した。




という訳で、読者の皆様にお知らせである。


平氏が11月より北新地にある「なごみ家」というお店で働かせてもらうことになった。


平氏はこれまで以上に頑張ると言っている。息を吹き返した修平氏をどうかよろしくお願い申し上げる次第であると述べて、今回の更新を終わる。